入院中の義父から連絡があったのは義母と生活をはじめて4日目の夕食時だった。
携帯電話に出ると、「●●くん、今回お世話になって申し訳ないね。」と先ず義父が大きな声で謝ってきた。そのあとなにやら発症当時の話をしてくれたのだが、正直聞き取りづらくうまく話が入ってこない。。。
しかも義父は難聴のせいでこちらの会話がうまく聞き取れないこともあり、こちらの返しを待たずに一方的に話し続けるため、こちらが話すと会話が尚更成立しないのである。
大事なことを聞き漏らしてはいけないのでこちらの会話を通すことは一旦諦め、先ずはじっくり義父の話を聞き取ることに専念した。
先ず入ってきたのは吉報であった。
手術後の経過も良好ということで主治医から退院の許可が出らしく、明後日の午前に病院まで迎えに来てほしいという趣旨であった。
入院当初は術後2週間程は安静にして入院が必要と伺っていたため先ずは安堵した。
隣で会話を聞いていた義母はとても嬉しそうにな表情を浮かべていた。
義母の好きな食べ物
退院に関しての事務連絡が一通り終了した後は、義母の日常生活に関する心配事や引き継ぎ事項についての話であった。
従来は義父が家事と義母の介護を全て一人で担っていたため、自分がそれをできない間に何かと気になることがあったのだろう。早口で次から次へと指示が飛んだ。
先ずは義母の食事についてのことである。
朝食はご飯と味噌汁、漬物に生卵が毎日の義母の定番メニュー。
特に味噌汁は大好きで高血圧を防ぐため薄味の味付けにして、毎食用意してあげてほしい(味噌汁には結構苦労したが試行錯誤の結果、最低限対応することはできたと思う)。
平日は昼食前におかずの宅配が弁当屋から届くのでそれを温めて直して食べてほしい。
しかし弁当のおかずはどれも美味しくないので、たまに違ったおかずを添えてもらえると助かる。
漬物は「べったら漬け」や「しぼり大根」を好むという情報も教えてもらった。
肉よりは魚が好きで寿司が好物なのでたまにスーパーで6巻セットなどを買ってくると喜ぶだろうということも。
体重が減りがちなので3食は必ず摂るようにしてご飯の量は半分から気持ち多めに盛り付けて欲しい。
毎食後に飲む薬が決まっているので間違わないように。
トイレは自分で行けるので心配しなくても良い。ただ、夜中に必ずトイレに起きるので足元だけ明かりが点くようにしておいてほしい。
お風呂は週に1回デイサービスの送迎車が迎えに来て入浴サービスを受けているので毎日は入らない。
義母に希望を聞いて入る日だけお湯を沸かしてあげてほしい。お風呂は滑るので浴室はよく洗って滑らないよう注意して。
洗濯機の使い方は洗濯機の上蓋に付箋が貼ってあり、そこに書いてあるのでその通りに操作すれば大丈夫。
など義父が入院中特に気になっていたことを矢継早に伝えたあとは質問はないかと聞かれたが、おそらく聞き取りが困難なことと今質問しても混乱するだけなので何かあれば帰ってから確認するとしてその場はとりあえずやり過ごすことにした。
退院手続きなど必要事項のメモを一通り取り終え、ふと隣を見ると義母の目から涙が溢れていた。
義父も眼の大手術を受け大変な状況にありながら、自分のことよりも義母のことを真っ先に気にかけ必死に義母の介護についての注意点や好きな食べ物などを私に伝えようとする義父の姿に、思うところがあったのだと思う。
電話を切ると、予想よりも早く義父が退院し戻ってきてくれることが何よりも嬉しかっただろう。
明後日病院に迎えに行くときに何を着ていこうとか、何時に出発して何を持っていこうとか、義母の楽しそうに会話する表情がとても印象的であった。
夕食途中というのも忘れ、義父の退院のお迎えの準備に気持ちは既に移っていたようである。
まるで遠足に行く前日の小学生のようにとても無邪気な義母であった。